【第217回】首相は今こそダライ・ラマと会見を

            皇室とともに
 

【第217回】首相は今こそダライ・ラマと会見を

島田洋一 / 2013.10.21 (月)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一
 
 第一次政権の任期内に靖国神社を参拝できなかったのは「痛恨の極み」という安倍晋三首相の言葉に嘘はないだろう。先人の鎮魂を政争や国際紛争の具にすべきでないという認識も正しい。それだけに、靖国神社の春と秋の例大祭に淡々と赴くという「自然な型」をつくる機を今年逸したのは重ねての痛恨事だった。今回の苦渋の不決断で生じた、自らの言葉の重みに対する疑念を、首相は行動を通じて払拭していかねばならない。その絶好の機会が間もなく訪れる。
 ●使えない「米国の反発」という口実
 11月15日、チベット仏教最高指導者ダライ・ラマが来日し、数日間首都圏に滞在する。この間に、日本の現職首相が初の会見を実現させれば、大きな戦略的意味がある。最近、安倍氏の年来の主張に警戒心を抱く外務省関係者などが「米国の反発」カードを多用している。が、そのほとんどは、中国共産党が怖いというのが本音だろう。そうでないなら、首相とダライ・ラマの会見には反対し得ないはずだ。
 米国はダライ・ラマに対し、歴代大統領によるホワイトハウスでの応接に加え、2007年10月には民主、共和両党の有力議員が「米議会ゴールドメダル」を授与している(当時のブッシュ大統領も同席)。政府・与野党が一体となり、中国に付け入る隙を与えていない。その米国が、日本の指導者のダライ・ラマとの会見に「反発」するはずもない。日本政府同様、ダライ・ラマとの接触を避けてきた韓国政府も、この問題では口ごもる他ないだろう。
 ●インドと同じ道徳的平面に立て
 外務省OBで元駐中国大使の宮本雄二氏が近著にこう記している。「ダライ・ラマと会談しても、ドイツのメルケル首相の場合は二国間関係への影響が小さかったが、フランスのサルコジ大統領の場合は影響が大きかった。北京の外交団のあいだでは、事前に首脳レベルで直接、中国側に伝えたかどうかの違いであると認識されている」
 要するに「影響」の大小は事前の手順次第であり、安倍首相は中国にトップレベルで通告した上、堂々と官邸にダライ・ラマを迎えればよいわけだろう。
 ダライ・ラマは、チベットのみならず中国共産党による弾圧に苦しみ、抵抗する人々を象徴する存在である。反日勢力の「歴史カード」に対し、日本は歴史認識の次元で反論すると同時に、現在進行形の人道犯罪を追及することで対抗せねばならない。にもかかわらず、日本政府はそのいずれにも尻込みしてきた。中国の弾圧に抵抗するダライ・ラマとの会見は、遅きに失したとはいえ、反転攻勢の心理的契機となろう。
 11月30日からは天皇、皇后両陛下のインド公式訪問が予定されている。インド政府は、ダライ・ラマの国内居住を認めるだけでなく、チベット亡命政権に拠点設置すら許してきた。中国の顔色をうかがってきた日本政府の対応には恥じ入るばかりだ。現職首相がダライ・ラマと会い、道徳的に日本をインドと同じ平面に引き上げておくことこそ、政府がなすべき最も重要な両陛下ご訪印の準備になるのではないか。(了)
 
 
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