JINF 援助に感謝しても挑発には抗議せよ

       援助に感謝しても挑発には抗議せよ
                         国基研理事長 櫻井よしこ
 
 空前絶後東日本大震災の救援、復興作業に、菅直人首相は自衛隊24万人のうち10万人を派遣した、史上初めて予備自衛官6000人も投入済みだ。国難に全力投球で対処するのは当然だが、自衛隊の半数近くを東日本に集めたことが、北方領土や沖縄・南西諸島を含む日本全体の国防をおろそかにすることになってはならない。
 とりわけ中国とロシアには要注意だ。両国は大震災に援助の手を差し延べてくれており、この点については心から感謝する。だが、国際政治の原点はいつの時代も各国の国益の担保と増進であることを、国家の指導者たる者は一瞬も忘れてはならない。
 
 ・中露の軍機が異常接近
 ロシア軍機は大地震発生後2度、日本領空ギリギリまで異常接近した。1度目は3月17日、ロシア空軍の電子情報収集機が、2度目は21日に戦闘機と電子戦闘機の2機の接近だった。未曾有の危機にある日本の防空対処能力を試したのであり、領空侵犯を防ぎ得たのは航空自衛隊の緊急発進ゆえだとみてよいだろう。
 中国も東シナ海で挑発をやめない。26日、海洋局所属の海洋調査船搭載のヘリコプターが海上自衛隊護衛艦「いそゆき」に高さ60メートル、水平距離90メートルまで接近し、ぐるりと一周した。昨年4月、東シナ海の中間線付近で大規模演習を行った中国海軍を海上自衛隊の「あさゆき」が監視したときの異常接近とほぼ同じ、不敵な示威行為だ。
 日本の地震被害の有無にかかわらず、尖閣諸島東シナ海、さらには沖縄・南西諸島海域で力を誇示する中国の姿勢も、軍事力をもって国益と主張を押し通す中露両国の戦略も、いささかも変化していないのだ。
 
・個人と国家を区別できない新外相
 対して松本剛明外相は、ロシアの領空侵犯類似行為に「お見舞いの言葉や支援の申し出をいただいているという気持ちを信じて、お付き合いしていくのが私どもの立場だ」と述べ、信じるが故に、抗議はしないと表明した。
 個人と国家の区別が全くついていないのだ。菅首相はかつて「開かれた国益を追求したい」と述べたが、国際政治における国益は、残念ながら開かれたものではなく、むしろ、国ごとに閉ざされた性質を持つ。まず、自国の利益が第一という国際社会の常識を首相も外相も理解していない。
 航空自衛隊出身の宇都隆史参院議員(自民)は、ただでさえ定員の少ない自衛隊員の半数近くを東日本に集中展開させて、北方領土や沖縄方面への国防の影響なしとはしないと指摘する。であればこそ、政治の鮮明な意思表示が必要だ。中露両国に断固抗議することを遠慮してはならないゆえんである。
 
国基研
 
奈良・平安の音色を今に伝える 笙の音を お楽しみください