金正恩体制はミサイル発射で深刻な負の影響を受ける 桜井よしこ氏

           皇室とともに

金正恩体制はミサイル発射で深刻な負の影響を受ける 櫻井よしこ

 金正恩体制はミサイル発射で深刻な負の影響を受ける 
   
 
12月12日午前9時40分ごろ、北朝鮮が長距離弾道ミサイルを北西部の東倉里(トンチャンリ)から発射した。予告通りの軌道を通過して、衛星「光明」を「予定の軌道に乗せた」とし、北朝鮮は「衛星打ち上げ」に成功した旨、発表した。
ミサイル発射の前日、どのメディアもいっせいに、北朝鮮がミサイルを発射台から取りはずし始めたと報じた。政府も発射は延期との見方を取った。完全に「裏をかかれた」わけである。北朝鮮による情報操作であれば、周辺諸国の裏をかくという意味で金正恩氏は成功したといえる。しかし、少し視野を広げて考えれば、正恩体制は深刻な負の影響を受けることになるだろう。
北朝鮮が経済的に行き詰まっているのは今更指摘するまでもない。「金正日総書記の遺訓」である「強盛大国」の実践どころか、正恩体制を支える現在の権力中枢でさえ、いつ崩壊するか、目が離せない状況だ。そうした中で、彼らが膨大な資金をかすめ取ろうと狙いを定めていたのが日本だった。
拉致問題解決のための話し合いの可能性をちらつかせつつ、1945年の日本の敗戦時に北朝鮮で亡くなった日本人の遺骨返還に応ずるとして、すでに両国間での話し合いが進んでいた。日本兵の遺骨返還について、北朝鮮側は1柱につき5万ドル(約400万円)を要求していたが、これは米国政府が支払っている額である。北朝鮮にとっては、日本相手に数百億円の資金を手にする交渉が進んでいたわけだ。
しかし、ミサイル発射はこうしたもろもろの交渉をすべて、無に帰す。経済的危機を考えれば、国力の弱体化がさらに進むことにつながるだろう。
別の面からも考えてみたい。藤村修官房長官は過日、「さっさと上げて(発射して)ほしい」と発言したが、発言の背景に北朝鮮の能力の過小評価があったといってよいだろう。
ところが突然の発射と「成功」である。今年4月の失敗から立ち直り、8カ月間で大幅な進歩を遂げたわけだ。進歩は自力開発というより、外国の技術援助があったとみるのが妥当であろう。
国際社会の合意に反して、北朝鮮に軍事的技術援助をあえて行う国としては、まずイランが考えられる。パキスタンも同様である。北朝鮮が秘密裏に開拓してきた武器装備の密輸ルートには驚くべきものがあり、他の国が絡んでいた可能性もある。確かなことはいまや北朝鮮が核の運搬手段を手に入れたということだ。
米国本土をもうかがうミサイルを手にした北朝鮮はすでにミサイルに載せる小型の核を開発したのか。その点について昨年6月15日、「産経新聞」がソウル発で報じた興味深い記事がある。
北朝鮮外務省の李根・米国局長が2010年秋に訪朝した米中央情報局の元関係者に、「我々はすでに核兵器の小型化に成功し、小型化した核を多数保有している」と語ったというのだ。
北朝鮮が実際に核の小型化に成功したか否かは、専門家の間でも意見が分かれる。だが、北朝鮮が最大の努力を注いで小型化を進めようとしているのは事実で、李根発言が事実なら日本およびアジア諸国、そして米国への北朝鮮の核の脅威は飛躍的に高まる。加えて北朝鮮は米露に次ぐ生物化学兵器大国で、保有量は2500~3000トンとみられている。国連による新たな制裁措置が必要なのは言うまでもない。
その場合、常に壁となって立ちふさがるのが中国だ。中国は常任理事国として北朝鮮に対するあらゆる制裁に反対し、あるいは骨抜きを図ってきた。のみならず、北朝鮮がイラン、パキスタン、シリアなどと武器装備の密輸を中国の港経由で行うのを黙認してきた。
中国は朝鮮半島への影響力を強めるために、正恩体制を支え続けるだろう。北朝鮮のミサイル発射は中国と日米アジア諸国の対立をさらに深めるもう一つのきっかけになり得るだろう。
週刊ダイヤモンド』 2012年12月22日号
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