JINF 今週の直言

          TPP参加が日本農業を救う
              国基研企画委員・東京国際大学教授 大岩雄次郎
 
 政府は、政治的な思惑から環太平洋戦略的経済連携協定(Trans Pacific Partnership、TPP)への参加を逡巡している。そうした日本は、今月6日から始まるTPPの交渉会合へのオブザーバー参加も認められなかった。TPPへの参加こそが既得権構造を打破し、正常な農産物市場を再構築し、日本の農業、ひいては日本経済を再生させる鍵を握っている。
 
 ・農業衰退の元凶は偏った保護農政
 世界的に穀物価格が高騰し、食糧危機が現実化してきている今、日本の食糧安全保障の要である農業は事実上崩壊状況にある。1961年の農業基本法は、農家戸数の削減による農地規模の拡大で生産コスト削減を目指したが、当時の自民党農林族と農協の政治的圧力により、食糧管理制度下での農家所得向上の名目で実施された米価の引き上げとその後の高価格維持を企図した生産調整(減反)によって骨抜きとなった。米の消費が減少する中で高価格を維持すれば、消費は一層減少し、一方で生産は拡大するのは当然である。2010年6月現在の政府在庫および農協等の民間在庫の総計は、316万トンに達している。
 この結果、日本農業は国際競争力を失い、65歳以上の高齢農業者の比率は1960年時点の1割から6割へ、農業外所得が大半を占める兼業農家の割合は3割から7割へ、耕作放棄地は1985年時点の3倍に拡大し、埼玉県の面積に匹敵する約39万ヘクタールに増加した。食料自給率は1965年の73%から2009年には40
%まで低下した。1953年まで国際価格より低かった日本の米価は、778%の高関税で支えられ、米の専業農家比率は、野菜や牛乳の80~90%に対して、40%以下に留まっている。生産コストの違いを考慮せずに、専業農家にも兼業農家にも一律に減反を強いた結果、専業農家は農地拡大によるコスト削減ができず、結果として所得も増加せず、日本農業は、壊滅的な打撃を受けた。
 
 ・TPP参加で農業を輸出産業に
 民主党政権はこれまで以上に減反を強化し、農家の個別所得補償政策のバラマキによる保護政策の拡大を図っている。農協は、資材購入、農産物販売、金融事業まで総合的な事業を今でも半ば独占しており、したがって農家の数の維持と高い米価のもたらす既得権益を守るために、圧倒的に戸数の多い兼業農家を一層利する生産調整を推進している。
 生産調整をやめ、専業農家への農地集約を実現すれば、米価を国際水準に低下させることは十分可能であり、引き下げにより国内需要も拡大する。土日しか農業に従事しない兼業農家を制限し、、欧米のように、専業農家に直接支払いの所得補償をすることで、農業を輸出産業に転換させることも可能である。それは将来の専業農家の育成にもつながる。
 TPP参加が日本農業を破壊するのではなく、このままでは自壊するしかない農業を再生するために、TPPへの参加が求められているのである。
 
国基研
 
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