金融だけでは経済を再生できない 大岩雄次郎氏

                          皇室とともに
 
【第169回】 平成24年12月3日
金融緩和だけでは経済を再生できない
国基研企画委員・東京国際大学教授 大岩雄次郎
各党の公約案が出揃うなか、安倍晋三総裁の発言に端を発した自民党の金融緩和策が注目
を浴びている。しかし、日本がデフレを脱却するために必要なのは、金融緩和によって金融
システムに溢れている資金を実体経済に流す構造改革規制緩和、税制改革といった政策で
ある。
量的緩和の効果は限定的
リフレ派(政策的にインフレを起こす考え方)の人は、日本の量的緩和政策(QE)の規
模が小さく、小出しに実施する故にインフレ効果がないと主張し、米国のような大規模な量
的緩和を求める。
米連邦準備制度理事会FRB)は昨年までに2 回の量的緩和政策を実施し、9 月13 日に
量的緩和第3 弾(QE3)を決定した。量的緩和第1弾(QE1、2008 年11 月)後も失業率
は9%台から下がらず、金融機関の利益は回復したが、雇用増大には繋がらなかった。量的
緩和第2 弾(QE2、2010 年11 月)後も、失業率は9.8%から2011 年3 月の8.8%まで低下
したに過ぎない。量的緩和策による貨幣供給の増加を通じた実体経済への影響(失業率の改
善、設備投資の増加、経済成長率の上昇、住宅価格の下げ止まり等)は認められなかった。
QE3 についても、株式の評価水準がQE1、QE2 実施時より大幅に上がることは期待でき
ないし、米政府は2013 年度には緊縮財政を表明しており、また主要国の中央銀行も既に量
的緩和を実施している中、ドル安の加速は期待できないことを勘案すれば、債券や信用、為
替、株式市場などを通じた実体経済への波及は期待できない。総じて言えば、量的緩和策は
ある程度景気回復を促すが、投資刺激や失業率の改善には役に立つとはいえない。
●肝心な構造・規制改革
日本銀行は既に無制限の緩和を行っている状況にある。日銀の総資産(対GDP 比)は2011
年以降の約2 年間で27%から33%へ拡大したのに対し、FRB は17%から19%への拡大に
とどまっている。しかし、現在のドル円相場は2011 年初めとほぼ同レベルで、顕著な円安
にはなっていない。さらに、金融緩和政策は国債の貨幣化(通貨の増発による国債の購入)
であり、結局日銀の国債保有残高の増加を引き起こし、財政規律を緩め、財政再建に逆行す
る。
名目金利がゼロの状況下で、中央銀行がいくら国債を購入しても、供給される資金は銀行
システムの中にとどまり実体経済には届かない。重要なのは資金需要があるかどうかである
が、日本企業は全体でみると依然資金余剰の状態にあり、外部からの資金調達を積極的に行
っていない。トレンド的にも資金需要が少なく、景気が上向く予想がないため、多くの企業
では借り入れをしてまで設備投資を行わない状況にある。
財政や金融政策は、本質的には対症療法であり、問題の先送りである。日本経済の再生に
は資金需要の創出が不可欠であり、それには経済構造の抜本的な改革が必要である。
自民党政権公約の「不断の規制改革」を宣言だけに終わらせてはならない。TPP(環太
平洋経済連携協定)参加に逡巡するようではその公約は果たせない。金融緩和政策や財政支
出政策より、国際基準に見合わない制度や規制の改革が再生戦略の本筋である。(了)
 
国基研