【第210回】シリア攻撃へ腰が引ける米政権

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【第210回】シリア攻撃へ腰が引ける米政権

田久保忠衛 / 2013.09.02 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛
 
 シリアが世界中を敵に回すと言っていいような化学兵器をなぜ使用したのか、いささか疑問は残るが、オバマ米大統領はしかるべき調査の結果、シリアを攻撃する決断を下すのだろう。
 しかし、その攻撃には、2003年のイラク攻撃の時に二人三脚で戦った英国もNATO北大西洋条約機構)軍も参加しない。米国と共に行動すると約束しているフランスですら、世論には反対が多い。オバマ大統領は、決断しても攻撃は限定的で短期間だと自ら規制を課している。ブッシュ前大統領のイラク攻撃を盛んに「単独行動主義」だと批判していたオバマ氏は今、大統領として腰の引けた「単独行動主義」をやろうとしているのだ。
 ●明確な目標の欠如
 1999年に同じ民主党クリントン大統領(当時)は、NATO軍の主力として米軍を投入し、広範にわたるコソボ攻撃を実施した。攻撃は75日間に及び、その結果、セルビア軍はコソボから撤退し、この地域は自治権を取り戻し、今は独立している。NATOは人道的介入の目的を達成した。
 対照的にオバマ政権は明確な目標を持っていない。シリアのアサド政権を打倒すれば、アルカイダ系などイスラム過激派を含む反政府勢力が政権の座に就く。その際に大量破壊兵器が国際テロリストの手に渡れば、世界はいかなる事態になるか。
 米国が攻撃に踏み切っても、シリアの化学兵器を完全になくすことはできない。民間人に巻き添えの犠牲者が出ない保証もない。だから、攻撃目的は「もう二度と危険な兵器は使用しません」との反省を促す懲罰的なものにならざるを得ない。中途半端な攻撃になるのを大統領自身はよく知っているはずだ。
 ●限られる大統領の相談相手
 それよりも、大統領は昨年8月に「レッドライン」(越えてはならない一線)は大量破壊兵器を移動させることであると公言してしまった。今年6月にシリア政府軍が少量のサリン剤を使用したことが明るみに出たので、まさに不承不承ながら小火器と弾薬を反政府勢力に提供すると決めたのである。今回は実際に使用されたのだから、行動しないわけにいかなくなった。
 オバマ政権が元来リベラル思考である上、世論は「内向き」、巨額の財政赤字のしわ寄せが専ら国防費にくる中で、大統領の相談相手はミシェル夫人、スーザン・ライス大統領補佐官(国家安全保障担当)、バレリー・ジャレット大統領上級顧問ら少数の人々に絞られてくる。彼らは米国をどこへ持っていくのだろうか。(了)
 
 
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