【第192回】「四島一括返還」を言えない安倍首相の初訪露

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【第192回】「四島一括返還」を言えない安倍首相の初訪露

澤 英武 / 2013.05.07 (火)


外交評論家 澤英武
 危惧した通りの安倍・プーチン会談だった。大型経済協力というお土産付きの安倍晋三首相の初訪露は、待ち構えるプーチン大統領に満足をもたらした。そして、日本にとっての最大の課題「北方四島」は先送りだ。「経済協力などで関係を良くすれば、領土問題解決の展望が開ける」というソ連時代からの出口論そのものである。
 ●国の尊厳失わせる「ヒキワケ」解決
 プーチン大統領は仕掛けを用意していた。得意の国際柔道用語を使った昨年3月の「北方領土ヒキワケ提案」である。その言葉に乗せられて、日本の政治家、マスコミは右往左往した。北方四島の分割解決論に誘導されたのだ。分割解決は国家の尊厳を損ない、日本を商取引の次元に貶(おとし)める。北方四島は切り離せない一塊なのだ。
 プーチン大統領に、1956年の日ソ共同宣言にある「平和条約締結後、歯舞・色丹の引き渡し」以上に譲る考えは毛頭ない。
 先の大戦で日本が降伏した後、ソ連軍が火事場泥棒的に占領、居座りを続けているのが日本固有の領土・北方四島だ。勝者たる連合国は、大西洋憲章で言う「領土不拡大原則」を掲げ、正義の戦争と称した。これが戦後の国際社会のルールとして定着している。連合国の一員、ソ連だけが領土を拡張し、北方四島の占領をいまなお続けている。ロシアは〝侵略国家〟なのである。
 日本はこの事実を広く世界に向けて、無期限に訴え続けることができる。ロシアは北方領土を抱えている限り、侵略国家の負い目に耐え続けなければならない。日本に負けはない。
 ●腰が引ける日本の態度
 日露首脳会談でプーチン大統領が、戦後68年も経って両国間に平和条約がないのは異常だと述べ、安倍首相も同意した、という。安倍首相はなぜ即座に「それはロシアが北方四島を不法占領し続けているからだ。返還すれば即時に平和条約が結ばれる」とロシアの非をとがめなかったのか。世界注視の記者会見でなぜそれを言わなかったのか。それを言うことで、日本が位負け外交から脱することができ、かつ世界の賛同を勝ち得たであろうに。
 日本政府、外務省は、「北方四島一括返還要求」の言葉を封印し、「北方四島の帰属問題を解決して平和条約を結ぶ」と他人事のように繰り返すばかりだ。誰に気兼ねして、この腰の引けた態度を続けているのか。中国、韓国の傲慢無礼に対しても同じだが、日本政府の〝紳士的反応〟に国民のいらいらは募るばかりだ。(了)

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