【第189回】対北宥和政策一致で「G2」論復活も

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【第189回】対北宥和政策一致で「G2」論復活も

田久保 忠衛 / 2013.04.15 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛
 オバマ米政権2期目の正直な気持ちは「世界の警察官としての仕事を減らし、国内の福祉に力を注ぎたい」に尽きているのではないか。北朝鮮の正気の沙汰とは思えない暴走に対し、米国はB2、B52の両戦略爆撃機、F22ステルス戦闘機などを米韓合同軍事演習に参加させて力んで見せたが、これはこけおどしであることが分かってしまった。ソウル、北京を速足で歩いたケリー国務長官は4月15日に安倍晋三首相と会談したが、東京へ来る前に仕事はほぼ済ませてしまった。
 ●ミュンヘン会談の再現?
 ソウルと北京での会談では、弾道ミサイル実験や核実験を強行し、日本、米国、韓国に暴言を吐く北朝鮮に対して、「強力に対応するが、態度を変えて対話に応じるなら協力する」(朴槿恵韓国大統領)し、「米国と中国は、挑発行為をやめ国際的義務を果たすよう北朝鮮に求める」(ケリー長官)ことになった。
 1938年のミュンヘン会談で、チェコスロバキアズデーテン地方を要求するドイツのヒトラーに対し、チェンバレン英首相は目前の危機を回避しようとして宥和政策をとった。当面はいかにも賢明そうな対応であるが、ヒトラーは図に乗って、世界中を大混乱に陥れる結果になった。
 ケリー長官の訪韓、訪中がミュンヘン会談に匹敵すると即断するのは多少粗雑かもしれないが、北朝鮮は「思う壺」とほくそ笑んだだろうし、中国は北朝鮮の致命傷になる食料やエネルギーの供給停止という極端な圧力をかけずに済み、自らの外交的価値がますます高まるのを感じて、さぞや満足したろう。関係各国の外交目標は、意味のない6カ国協議の開催になる気配だ。
 ●米中結託なら同盟関係にひび
 米中関係はサイバーテロ問題をはじめ少なからぬ懸案を抱えている。が、第5回米中戦略・経済対話は7月8~12日の週にワシントンで開かれることが決まり、中国側から王洋副首相、楊潔篪国務委員らの大物代表団が訪米する。米側はケリー長官、ルー財務長官らが参加する。
 キッシンジャー国務長官ブレジンスキー大統領補佐官、ポールソン元財務長官ら党派を超えた親中派が、米中両国で国際秩序を取り仕切ろうという「G2」論を華やかに展開しそうな予感がする。米国が築いてきた日本をはじめとする同盟・友好諸国との安全保障関係の崩壊にG2論がつながることは、キッシンジャー氏のような賢人なら十分に心得ているだろうに。(了)
 
国基研