首脳会談を弾みに果断な実行を

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【第182回】首脳会談を弾みに果断な実行を

湯浅 博 / 2013.02.25 (月)

産経新聞特別記者・国基研企画委員 湯浅博
 日米首脳会談でみせた安倍外交が、「周到な準備」と「一気の決断」で、オバマ大統領から満額回答を引き出したことを高く評価する。安倍晋三首相の積極姿勢が日米同盟の「きずな復活」を強く印象づけ、対中抑止力を確かなものにした。
 ●TPP参加へ環境整う
 安倍首相にとっての難関は、米国主導の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への交渉参加問題だった。民主党政権と同様、自民党内にも強力なTPP反対勢力があり、「コメ防衛」で安倍首相を揺さぶり、国益よりも票田である団体の利益を優先した。
 だが安倍首相は、7月の参院選を乗り切るために、彼ら農林族議員を無視できなかった。だからこそ、安倍自民党は先の総選挙で「聖域なき関税自由化の交渉に参加しない」との原則を打ち出していた。もっとも「聖域なき関税自由化交渉」などというものはこの世に存在しない。過去の多国間貿易交渉のウルグアイ・ラウンドも例外はあった。続くドーハ・ラウンドに至っては、巨大市場の中国とインドが横を向き、ついに暗礁に乗り上げた。
 そこで、アジア太平洋で自由貿易に意欲をみせる有志国が、このTPPを動かした。日米首脳会談前の裏交渉で「全ての関税撤廃をあらかじめ約束するものではない」と確認し、会談後の共同声明に結実した。日本がコメを関税撤廃の「例外」とすることを事実上認めた内容だ。「聖域なき関税撤廃」が前提でなくなった以上、農林族が地元に説明しやすい環境になったに違いない。
 ●日米同盟の信頼回復
 だがTPP交渉は、各国間の「例外獲得」合戦になりかねないリスクを背負ってしまったわけで、安倍首相が確実に交渉参加をしなければ、米国の譲歩は間尺に合わなくなるだろう。首相が帰国後に、与党と調整して「一気の決断」をすることを望む。
 仮にも日本国内でTPP反対の大合唱が起これば、ほくそ笑むのはドーハ・ラウンドをつぶした中国である。日本をTPPつぶしの矢面に立たせて米国抜きの中華経済圏に誘導する魂胆だったから、今回の共同声明はこれを遮断する効果がある。
 日米首脳会談はさらに、集団的自衛権の行使容認、日米両軍の役割分担を定める「日米防衛協力のための指針」の再改定、米軍普天間飛行場辺野古移設も含め、対中抑止力につながる案件ばかりであった。日米同盟の信頼回復ができたいま、安倍政権の果断な実行が急がれる。(了)
 
国基研