原発への疑問に答える(2) 客員研究員 奈良林直氏

4)再生エネルギー・新エネルギー・核融合
【疑問】現時点では、原発にはそれなりのメリットがありますが、将来的にはそのメリットが失われる確率が高いと私は考えています。その根拠は、レーザー核融合メタンハイドレートの2つです。レーザー核融合はまだ先の技術です。しかし、50年後ぐらいには、実用化の目処が立つのではないかと期待しています。では、それまでの期間をどうするのか。それがメタンハイドレートです。来年2月に愛知県沖で試掘が始まります。その埋蔵量は約100年分と試算されています。
【回答】核融合技術は大いに期待され、国家プロジェクトとして膨大な予算を投入して開発が続けられてきました。レーザー核融合もその1つで大阪大学に巨大な施設が作られましたが、十分な核融合反応を得ていません。核融合反応の原理的な確認に成功したトカマク型の国際熱核融合実験炉(ITER)に集約されました。しかし商業レベルで運転しようとすると、現在実在する金属の約10倍の熱を受けても溶融しない金属や、強い中性子を受けても損傷しない材料の開発などの技術的な壁があって、それらが解決できる見通しはまだ得られていません。これらの材料開発には200年かかるという説があります。ITER開発は推進すべきですが、商業レベル規模の核融合発電所は依然として夢の技術です。
メタンハイドレートも既に20年以上前から開発が進められ、試掘も行われてきました。しかし、メタンが水に溶け込んでハイドレート化(氷状の結晶化)しているため、そのまま掘削して採取しようとすると、1000mの海底から重い氷を持ち上げることになり、その採掘に必要なエネルギーはハイドレートから得られる燃料のエネルギーを上回ってしまいます。コストではなくエネルギー収支比(EPR)的に成立しないのです。このため、真空ポンプで圧力を下げてメタンを蒸発させるなどの方法が試みられてきましたが、困難を極めています。地球温暖化を心配する立場からは、海底に閉じ込められた温暖化ガスであるメタンをどんどん掘り起こしてしまって良いかということも考えなければなりません。
米国ではシェールガスといって岩を水圧で砕いて天然ガスを採取することに成功して「シェールガス革命」に沸き経っていますが、農家の井戸から天然ガスが噴出して火災になったという事故も発生しており、大気中に多量のメタンが出てしまうことによる地球環境への技術アセスメントが必要です。
太陽熱発電、海洋温度差発電、波力発電などはサンシャイン計画、ムーンライト計画の国家プロジェクトで開発が推進されましたが、いずれも商業的なレベルに到達せずに終了しています。太陽熱はミラーや集光器に新しい素材が適用されて新しい可能性が見えています。地熱発電は、実用化されていますが、2年に1本のペースで約5億円の蒸気井戸を掘らなくてはならず、規模の小さな発電所の経営を圧迫します。2年もすると井戸のパイプの内面に年輪のようにシリカが付着して、蒸気の流路を狭くするのです。蒸気中には亜硫酸ガスなどの腐食性気体を含み復水器を腐食するほか、復水器の真空度が上がらないため蒸気タービンの効率も上げられません。これらの開発を推進することは必要ですが、これらに過大な期待をして原発技術を捨て去ることは、国家の基幹エネルギーの1つを放棄することになり、国家の存亡をかけてしまうことになりかねません。しっかり成立することを確認してから、エネルギー計画に組み込む必要があります。
再生エネルギー法が成立しましたが、これらは太陽電池パネルや風力発電所に投資できる企業や電力会社のメリットになるものの、一般の消費者には税金や電気料金の値上げで負担がかかってきます。300万円の太陽電池パネルを屋根に乗せることができる裕福な人はそう多くはないはずです。150万円の補助金が付けばそれは税金です。一般庶民から投資を受け、大企業や裕福な家庭にお金を吸い上げるゆがんだ経済のしくみを「再生エネルギー法」が作りだすのです。このしくみを「フィードインタリフ」と呼びますが、ドイツはこれを10年やって太陽光はわずか1.9%しか普及していません。19%にするには単純計算で100年かかります。技術革新でコストダウンが進めば100年はかからないかもしれませんが、投資効率が低いエネルギーに過大な投資をすると国家経済をゆがめます。ドイツでは1兆円企業ができましたが、電気の買い取り価格を下げたら途端に収益が悪化しました。スペインの太陽光もうまくいっていません。これらの実態を日本のマスコミがほとんど報道しないので、再生エネルギーで日本は救われると国民は錯覚しているのです。現実は厳しいです。メタンハイドレートは国の研究機関が既に20年以上の研究開発を行ってきています。様々な技術開発が必要でしょう。
国家のエネルギー計画を決めるのに「期待」だけで論ずるのは危険です。「実績」や「技術の影」の部分もしっかり把握して10年以上時間をかけて議論して決定すべきだと思います。
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2011/11/21
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