米中心の新アジア秩序構築へ

           国基研副理事長 田久保忠衛
 
  ハワイを起点とし、豪州のキャンベラとダーウィンインドネシアのバリ島を回った
 オバマ米大統領の外交を総括すると、米国の意図は二つになる。第一は、イラク
 アフガニスタンから手を抜く米国が、衰退したとか孤立主義に向かうといった批判 を否定し、米国を中心とした新しい国際秩序をこれからアジアでつくるとの宣言だ。 第二は中国に対して採ってきた硬軟両様の政策(関与と保険)のうち、軍事力を含 めた強い対抗策に重点を移行するとの意思表示である。当初中国が唱えた「平和 的台頭」ではなく、「危険な台頭」に中国の周辺諸国が一斉に危険を感じた結果、 米国を中心とした勢力均衡が新たに実現しようとしているのである。
 
  ・豪に海兵隊インドネシアに戦闘機
  オバマ政権が相当の覚悟で臨んでいることは先ず、ダーウィンに米海兵隊200 人から250人を駐留させるという米豪両国の合意を見れば明らかだろう。東ティモ ール海、南シナ海、インド洋を望む地政学的に重要な地点に米国の軍事的拠点を
 置き、将来は米海兵隊員の規模を10倍の2500人に持っていく戦略的意味は小
 さくない。次に、オバマ大統領は台湾の4年越しの要請に応じなかった改良型の
 F16戦闘機(C/D型)24機をインドネシアに売却する決定をした。インドネシア空軍
 が保有するF16(A/B型)は旧式で、わずか10機だ。インドネシア空軍のパイロット
 の訓練も米国で行い、沿岸監視用のレーダーも米国から提供される。
 
   ・日本に必要な国際的視野
  さらに、大統領はキャンベラでの豪州議会演説の後、ミャンマー民主化運動指 導者アウン・サン・スーチー女史に電話をかけ、クリントン国務長官が12月にヤン ゴンを訪れると正式に伝えた。去る3月に軍事政権の首相から新政権の大統領に
 転じたテイン・セイン氏は従来の政策を次々に転換し、国際社会への積極的な参
 入を試みている。ミャンマー北部のイラワジ川上流で中国の主導の下に建設が始
 まっていたミッソン・ダムについては、工事凍結を一方的に通告した。水力発電
 の90%を中国に送電される計画に、自主独立を夢見るミャンマー人が追随できる
 はずはなかろう。
  21世紀の新しい国際秩序の波がわき起ころうとしている。この文脈の中で環太 平洋経済連携協定(TPP)の意義を把握しておかなければ、国際情勢全体の中で
 占める日本の位置を見失う。日本の国益を唱えるのは当然だが、国際的視野を
 欠けば、所詮、偏狭なナショナリズムに終わる。銘肝すべきはこれだ。  (了)
 
国基研