JINF 米・パキスタン離反に中国の影

              米・パキスタン離反に中国の影
                          国基研副理事長 田久保忠衛
 
 国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン殺害後、米・パキスタン関係は極度に悪化している。パキスタン政府自体が国際テロにどう対応しようとしているのか不透明だし、米国はパキスタンが持つ世界最大の情報組織「三軍統合情報部」(ISI)とアフガニスタンの反政府勢力タリバンあるいはアルカイダとの関係に疑念を抱いたままだ。ここに中国がどのような関わり方をするかによって、南アジアは動乱の震源地になるかもしれない。
 
 ・ビンラデイン殺害で溝
 2001年の「9,11」事件(米同時多発テロ)で、米国はパキスタン政府に「タリバン側につくか、米国につくか」の二者択一を迫った。ISIがタリバンの育ての親のような役割を演じていたことを知っているからだ。今回のビンラディン殺害行動を米国は事前にパキスタンに通報しなかった。ニュースがビンラディンに漏れることを極度に恐れたのである。ところが、パキスタン側には「米国は一方的にパキスタンの主権を侵害した」との声が強まっている。米民主党の大物であるジョン・ケリー上院議員が急遽パキスタンを訪問したし、近くクリントン国務長官イスラマバードを訪れるが、基本的な対立は深刻で、溝は容易には埋まりそうにない。
 パキスタンの「二枚舌」外交はビンラデイン殺害事件の直前にも明らかになった。4月16日にパキスタンのギラニ首相はアフガニスタンのカブールでカルザイ大統領と会談したが、その後「米国と長期の戦略的パートナーシップを締結するのをやめて、パキスタンとその同盟国である中国に支援を求めるよう」働き掛けたというのである。4月27日付けのウォール・ストリート・ジャーナル紙が「パキスタン政府によれば」として報じた。この報道は公式に否定されていない。
 
 ・温首相があてつけ発言
 そのギラニ首相は5月18日に北京で中国の温家宝首相と会談した。会談の予定はビンラディン殺害前に決まっていたが、温首相は「パキスタンは国際的な対テロ戦争で多大な犠牲を払い、重要な貢献をした。パキスタンの独立、主権、領土保全は尊重されなければならない」と強調し、米国に対するあてつけのような態度を誇示した。
 米国はこれに対処できそうにない。オバマ大統領はビンラディン殺害でアフガニスタンからの撤兵がし易くなったと「国内向け」の政策に踏み切ろうとしている。米議会には民主、共和両党から撤退論が出ている。このような状況で優位に立つのはタリバンだ。政情不安のパキスタンが「タリバン化」し、核がテロリストに流れないか。事態は重大だ。
 
国基研
 
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