JINF 今週の直言

   またもひるむ管政権ー劉氏へのノーベル賞授与で
                          ジャーナリスト 石川弘修
 
 中国の民主活動家、劉暁波氏へのノーベル平和賞授与決定に対し、管政権の反応は遅く、及び腰ばかりが目立った。
 ノルウェーノーベル賞委員会が8日に発表すると、欧米諸国は慎重ながらも素早く歓迎の声明を発表、米国のオバマ大統領は中国政府に対し、懲役11年の刑で服役中の劉氏の早期釈放を訴えた。台湾の馬英九総統でさえ「中国の人権向上にとって歴史的な意義を有する」と祝福した。管直人首相が劉氏の釈放を求めたのは、国際社会の反応に遅れること5,6日、国会での答弁でやっと「釈放が望ましい」と表明するにとどまった。
 
 ・国内だけの地球市民
 尖閣諸島沖での漁船衝突事件の後でもあり、これ以上中国政府を刺激したくないとの配慮からだろうが、残念ながら首相は中国の前にまたもひるんでしまった。首相は元来リベラルな市民運動家であり、市民的な自由や人権などを求めて闘ってきたはずである。首相を支える仙谷由人官房長官にいたっては、「地球市民」を標榜していたではないか。在日の韓国人や朝鮮人のためには差別反対の運動を推進するが、中国の民主化や自由を求める運動家には支援の手を差し伸べないどころか、声さえかけないのだろうか。グローバルな連帯感がなく、国内だけしか通用しないリベラリズム市民運動は、ご都合主義である。
 
 ・経済優先の対中姿勢に警鐘
 ノーベル賞委員会は中国の外務次官から「反体制派への授与は非友好的な行為、中国・ノルウェー関係に影響を及ぼす」との警告を受けながらも、予定通り決定。この結果、ノルウェーは中国から閣僚級会合の中止、ノルウェー政府の訪中団受け入れ延期、中国政府代表団のノルウェー訪問中止など相次ぐ”報復措置”を受けている。それでも、同委員会のヤーグラン委員長は「経済的な利害関係などから我々が沈黙するならば、これまでに国際社会から受け入れられてきた(人権の)基準は下がってしまう」と述べ、相手が大国だからといってひるむことのない決意を表明している。経済的な対中依存が強まるにつれ、人権批判を弱めていた国際社会に対する警鐘であり、あらためて「民主化と人権、法の統治」という普遍的な価値の意味を世界に問うた。
 
 ・中国も大国としての責任
 ソ連民主化運動を推進した物理学者、故アンドレイ・サハロフ博士がノーベル平和賞を受賞したのは1975年。それから16年後、一党独裁ソ連は崩壊した。確かに旧ソ連と中国は違う。経済や貧困削減で劇的に進化した中国は、いまや世界第二位の経済大国にならんとしている。だが、政治改革は追いついていない。米国がそうであるように、中国も大国としての責任が生じ、議論と批判の対象になることを知るべきである。
 
国基研