コロナに関する素朴な疑問

            皇室とともに

 『三橋貴明の「新」経世済民新聞』2020年4月16日  コロナに関する素朴な疑問  From 小浜逸郎   @評論家/国士舘大学客員教授


4月6日に緊急事態宣言が発出されてから10日経ちました。 テレビでは、相変わらず、人通りが途絶えシャッターを下した繁華街の光景を映し出しています。 そして、新たに発生した感染者数、累計感染者総数、死者数、退院者数を報告しています。

 ここでまず素朴な疑問が生じます。 毎日報告される感染者数は、どれだけの検査件数に対するものなのか。 PCR検査件数全体に対してどれだけの割合で陽性反応が出ているのか、その割合がまったく分かりません。 つまり分母が提示されないままに、今日はこれだけ発生した、全体でこれだけ増加したという発表だけがなされているわけです。 3月24日に小池都知事がいきなり「非常事態」宣言をしてから、全国でも検査件数を増大させたと想定されますが、検査件数が増えれば、感染者数も増えるのが当然です。 韓国のような検査件数が多い国ほど致死率が低いと言った誤報に影響されたのではないかと推測されます。 https://www.gohongi-clinic.com/k_blog/4133/ ちなみに東京都における4月6日から8日間における検査実施件数は4,652件(一日平均582件)、うち陽性反応1204件となっており、その割合は、25.9%です(数字にやや不審な部分もあります)。 なお3月23日以前は、一日の検査実施件数が多い時で180件、少ない時で0件で、24日以降激増しているさまが読み取れます。 https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/

 次に思うのは、各都道府県は、検査を全域にわたって均等に行なっているのか、それとも受診者がある地域に集中しているのか、その分布状況もわかりません。 また、感染者(陽性反応が出た人)のうち、世代別の分布、無症状者・軽症者・重症者の割合、職業別の割合など、知るべき情報が一般に知らされていません。 各自治体では出しているはずですから、これらは簡単に集計できるし、また発表しても差し支えないはずです。

 これらの情報は、後述するように、新型コロナという流行病の特質と適正な対策を考えるうえで極めて重要な情報です。 それなのに、「感染者がついに8000人を超えました」といった視聴者を脅すような情報発信ばかりがなされています。 意識的な隠蔽とまでは思いませんが、こうした情報発信の方法が、視聴者の不安を煽り、結果的に自粛やむなしという方向にただ一方的に誘導する効果を持っていることは明らかです。 これは推測ですが、厚労省がだらしないためにこうした情報整理をやっていないのではないかと思います。

 すでによく知られている新型コロナという流行病の特質を簡単に整理すれば、

 ①人から人への感染力がきわめて強い ②密室、密集、密接によって感染しやすい ③高齢者や基礎疾患のある人は重症化しやすい ④8割は軽症で回復している ⑤潜伏期が長い ⑥無症状感染者の数が多い(知人の医師によれば、報告されている数の15倍はいるだろうとのことでした)

 これらの特質について、また別の知人の医師は次のように語っていました。 《コレラやペストはいざしらず、新型コロナは、その8割は軽症で回復している病気です(連日報じられる死者数の陰に隠れがちですが)。潜伏期が長く、さらに感染しても発病しない不顕性感染者がたくさんいます。これが、どこに感染者(保菌者)が潜んでヴィールスをまき散らしているかわからないという強い不安や疑心暗鬼を生んでいます(だから、とにかく集まるなと規制)。しかし、裏返せば、それだけ発病力の低い、ほんらいは軽い感染症だという理解が可能です。感染力の強さと疾患としての重篤さとはちがいます。感染力が強いのは、現時点ではだれも免疫をもっていないことが大きいでしょうね。もちろん、条件次第で致死的な転帰を取り、医療状況によりますが平均すれば2~3%の死亡率を示していますから、決して甘く見てはなりませんけれど。感染力が強くていっぺんに大勢が罹るため、致死率は低くても死亡者数は多くなるのです。》

 さてこのコメントで一番気になるのが、「感染力が強いのは、現時点ではだれも免疫をもっていないことが大きい」という部分です。 この事実は、裏を返せば、免疫力をつけるためには、軽く感染して治癒する(または発症しない)なら、そのほうがむしろ望ましいという考え方も無視できないことになります。 天然痘に対する種痘にしても、結核に対するBCGにしても、抗体を作りだすためにごく軽微な感染状態にするという(ワクチンが手に入らない状態では)感染症対策としては伝統的に取られてきた方法です。

 ここで、素朴な疑問の第二です。 現在取られているように、人と人との交流を限りなくゼロにすれば、やがてはウィルスは「封じ込められて」終息する、という「自粛要請」(欧米では「強制」)の方法は、果たして唯一の正しい方法なのか。 「封じ込める」という言葉についてですが、正確にはどういう意味なのでしょうか。

 人と人との接触を排除する→ウィルスを「封じ込める」。

 この論理はそれほど科学的根拠があるでしょうか。 よく知られているように、ウィルスは何かのきっかけであらぬ方向に変異していきます。 他の感染経路(人→モノ→人、人→動植物→人)を見出さないかどうか、誰にも分りません。 仮に人同士の接触を断つことで一時的に減衰が見られたとしても、ネズミが増えてきたのを片端から殺鼠剤で殺していけばよいというふうに原始的な発想ではうまく行かないのが、このウィルスという不思議な存在の厄介なところです。
何か他の発想も必要なのではないでしょうか。

 ジョンソン英首相は3月12日の記者会見では、休校や集会禁止、市民同士の接触を制限するなどの措置は取らないと明言し、手洗いの励行を呼び掛けるにとどまっていました。 多くの人が感染することで免疫をつけ、その人たちによって感染の急拡大を防ぐという「集団免疫」の戦略です。 しかし猛烈なバッシングを受けて、16日には一転、厳しい自粛政策を取るようになりました。 さてそれから1か月たったわけですが、この強制自粛の方針は、果たして功を奏しているでしょうか。 前回使用した100万人当たり累計死者数のグラフの現時点(4月14日)までの推移を見てみましょう。 https://web.sapmed.ac.jp/canmol/coronavirus/death.html

 上から四番目のオレンジ色がイギリス、茶色が日本です。 念のため、このグラフの縦軸が対数目盛になっていることにご注意ください。 日本が1に達していないのに、イギリスは167で、しかもそのカーブはまだまだ右上がりで急上昇しています。 3月16日以前は0.2以下くらいしか上昇していなかったのが、4月に入ってからは、毎日平均10を超える単位で数値が上がっているのです。 1,2位のスペイン、イタリアが、すでにカーブが緩やかになってピークを過ぎたらしく見えるにもかかわらずです。

 強制自粛路線が必ずしも効果を生んでいないことがこれでわかりますが、もう一つ、アイスランドの例を挙げておきましょう。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200409-00010000-clc_teleg-eurp&fbclid=IwAR333OSqifRMxdDtW7LZTX70yKJUeSWqyEeu_M-W3STM8JHdKrlYfiEheYg アイスランドでは人口当たりの感染者が世界で最も多いのですが、これは検査件数の多さによるものです。 うち1364人が陽性反応を示し4人が死亡しました。 これは上の図に当てはめると、約11になります。韓国とドイツの間ということですね。 ただ、アイスランドでは、この検査結果を利用して統計学的に感染リスクが高い市民に対し積極的な隔離政策を進めることで、厳格な全国規模の都市封鎖を回避しています。 疫学者チームを率いるソロルフル・グドナソン氏の対策チームは警察官と医療従事者60人で構成され、感染が確認されるとそれぞれが個別に調査を行い、接触者を把握します。 こうして得た詳細なデータに基づいて、対人距離の確保について簡単なガイドラインを作り、これによってウイルスが急速に拡散する前に接触者を把握することができたため、都市封鎖や隔離を免れることができ、また、医療現場にかかる力を緩和できたと言います。 どうして可能だったのかはわかりませんが、アイスランドでは、去年の暮れの時点でパンデミックの可能性に気づいていたそうです。 その結果、医療体制や調査体制について周到な準備ができたというのです。 イタリアやスペインのように通りが静まり返っていたり、店が閉まっていたりする様子はなく、カフェやパブ、店は穏やかに営業を続け、学校は休校せず、移動制限もない。 観光客ですら、歓迎されているということです。

 人口わずか36万5千人の小国だからそれだけの結束と素早い連係プレーが可能だったとは言えるでしょう。 しかし、参考にできる部分は大いにあります。 第一に、データの詳細な把握と共有です。 はじめに述べたように、感染者数と検査件数との割合、年代層、居住地域、症状の有無と程度、職業などについて、詳細なデータを(一般国民に全公開はしないまでも関係者の間で)共有することで、この病についての一定の医学的判断が成り立ちます。 第二に、これにもとづいて、どこに重点的に医療関係者や医療体制を配備すればよいかというおおまかな基準(ガイドライン)を作ることができるでしょう。 これは現在問題となっている医療崩壊の危機に対して、均衡ある配分を達成することに寄与するかもしれません。 第三に、このような効率的な対応をすることで、何も一律8割の自粛を要請するなどという杓子定規な判断をしなくても済みます。 たとえば、何人以下、どんな空間、どれくらいの時間なら要請に従わなくてもよいとか、60歳以上の人は極力家を出ないようにする、テレワークのできない会社員でも、この場合は出勤して大丈夫、小中学校は休校にしなくてもよい、といったより具体的な指針を示すことができます。

 政府や都は、職業について細かな規制を敷いていますが(しかも両者で食い違っていますが)、この判断はきわめて恣意的です。 同じ職種であっても、複数の条件をインプットすることで、営業してもよい場合と自粛した方がよい場合との区別も可能となるはずです。 そういうきめ細かな指示を与えることは公共機関の責任でもあるでしょう。 政府は、大した理論的根拠もなく自粛7割から8割だ、などと断案を下していますが、経済の恐るべき凋落を考えたら、こんな粗雑な断案で片付く話ではありません。 8割おじさんこと西浦博氏が「専門家」としての力を示していますが、あまり理論的根拠を感じませんし、一律にしなくてはならない理由も明らかではありません。 地域によって事情がまったく異なるはずだからです。 それに、仮に医療の立場から説得性があったとしても、一国の経済的運命を握る一大事なのですから、医師といえども政策決定に関与している限りは、この二律背反をどう解決するかについて、「政治判断は専門外だから」では済まされず、少なくとも真剣に悩むべきだと思います。

 いずれにしても、この二律背反を克服するために必要なのは、疫病克服としてのコロナ対策と経済崩壊防止のための対策とをどう両立させるかの「さじ加減」です。 しかしいまの安倍政権にはその力はありません。 なにしろ消費税には一指も触れず、休業補償はしないと平然とのたまい、赤字国債はわずか16.8兆円、これでは国民殺しの政権と呼ばれても仕方ないでしょう。 すべてこれ、財務省がPB黒字化目標を崩さないところから出ている政策です。 実を言えば、コロナ危機は、財務省の緊縮路線を崩して、消費税を廃止し、100兆円規模の財政出動に踏み切る絶好のチャンスなのです。 これができれば、安倍首相はヒーローになれるでしょう。 ところが肝心の彼氏、星野源さんと並んでお部屋でワンちゃんと遊んでおります。 やる気のない安倍政権に見切りをつけて、私たち自身で国家存亡の危機に向き合っていきましょう。

 【小浜逸郎からのお知らせ】

 

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